最高裁判所第一小法廷 昭和59年(オ)84号 判決 1987年4月02日
主文
原判決中上告人敗訴部分のうち、被上告人中島九州男につき一四五万八〇四四円、被上告人横田重信につき一四五万二一〇五円をそれぞれ超えて被上告人らの請求を認容した部分を破棄する。
右部分につき本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
上告人のその余の上告を棄却する。
前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人苑田美穀、同山口定男、同立川康彦の昭和五八年一二月二一日受付上告理由書記載の上告理由第一、第二及び同月二三日付け上告理由書記載の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及び説示に照らして是認することができ、その過程に所論の違法はない。原審の確定した事実関係の下において、被上告人中島九州男、同横田重信に対する本件解雇は労働組合法七条一号に違反する不当労働行為に該当するものとして無効であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実若しくは独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
同昭和五八年一二月二一日受付上告理由書記載の上告理由第三について
使用者の責めに帰すべき事由によつて解雇された労働者が解雇期間中に他の職に就いて利益を得たときは、使用者は、右労働者に解雇期間中の賃金を支払うに当たり右利益(以下「中間利益」という。)の額を賃金額から控除することができるが、右賃金額のうち労働基準法一二条一項所定の平均賃金の六割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることが禁止されているものと解するのが相当である(最高裁昭和三六年(オ)第一九〇号同三七年七月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻八号一六五六頁参照)。したがつて、使用者が労働者に対して有する解雇期間中の賃金支払債務のうち平均賃金額の六割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解すべきであり、右利益の額が平均賃金額の四割を超える場合には、更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(労働基準法一二条四項所定の賃金)の全額を対象として利益額を控除することが許されるものと解せられる。そして、右のとおり、賃金から控除し得る中間利益は、その利益の発生した期間が右賃金の支給の対象となる期間と時期的に対応するものであることを要し、ある期間を対象として支給される賃金からそれとは時期的に異なる期間内に得た利益を控除することは許されないものと解すべきである。以上と異なり、中間利益の控除が許されるのは平均賃金算定の基礎になる賃金のみであり平均賃金算定の基礎に算入されない本件一時金は利益控除の対象にならないものとした原判決には、法律の解釈適用を誤つた違法があるものといわざるを得ず、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、原判決中被上告人らの本件一時金請求を認容した部分(すなわち、被上告人中島につき一四五万八〇四四円、同横田につき一四五万二一〇五円をそれぞれ超えて被上告人らの請求を認容した部分)は破棄を免れない。そして、右部分については、原審の認定に係る昭和五一年度冬期、同五二年度夏期、冬期及び同五三年度夏期の各一時金につき、被上告人らがそれぞれその支給対象期間に対応する期間内に得た利益の額を控除してなお残額が存在するかどうか更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。
よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 角田禮次郎 裁判官 高島益郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 佐藤哲郎)